始まりは、結末を迎え。
生は死を待ち続け。
そして夜は、やがて朝に染まる。
とある夜 他愛もない会話
頭上より、白い雪が舞い落ちる。勢いと呼べる勢いはないのに、ふと風景に目をとめてみれば、そのほとんどが純白によって覆われつくそうとしていた。
それはまるで、粉をふられたかのような繊細さ。それだけで、この雪がどれだけ長時間、静かに降り続けているのかがわかる。
そんな、満月の光の下で幻想とも見違えるほどの光景を前にして、しかしハボックとロイは、ただの一言も言葉を交わさない。ただ、ともすれば雪より冷たい沈黙が、二人の間に静かに横たわっている。
「……大佐ァ」
「何だ」
「雪、やみませんねェ」
「だったらどうした」
ああ、だめだこれは。この人、本気のマジで怒ってる。
ハボックは胸中で観念して、ロイの機嫌とりを断念する。
果たしてそもそも、何が悪かったのだろうか。思い返す。
始まりは、一本の電話だ。それによると、前々から軍が追っていた犯人が、東部に逃げこんだ可能性があるのだという。よって、マスタング大佐とその部下一名が残り、次の連絡があるまで待機するよう言われたのだ。
当然(のように)ロイは渋ったが、命令を下したのが少将の地位につく者であるとなっては、そうそう無下にも断れまい。そうして、泣く泣く今夜のデートをキャンセルしたのだ。
が、誤算はこの後である。ロイ・マスタング国軍大佐(雨の日無能)の側近であるホークアイ中尉が、書類確認と現場検証のため、東方司令部を留守にしているのだ。
それでも司令部にロイが顔を出していたのは、以前ホークアイがいない時にサボり、部下に裏切られチクられて、手痛い目にあったという過去があるせいなのだが、それはどうでもいい。問題は、ホークアイがいないというこの事実。
無論のこと、向こうは名指しでホークアイを指名した。出張の件の伝令は、まだ中央に行っていなかったらしい。その旨をハボックが告げると、あろうことか「じゃァ君で」と言ってきたのだ。……「じゃァ」って何ですか中央の少将さん。
しかしまさか断るわけにもいかず、ロイの鋭い視線が背に突き刺さる中、了承の返答をしたのだった。
……で、結局何が悪かったのだろうか。ロイはこの待ちぼうけを「お前が電話を取ったせいだ」として、ハボックの責任にしている。それは違うだろうと思いながら、ハボックはこれを、東方に逃げてきた犯人のせいにしておいた。
未来の話として、実はこの犯人は東部などに現れてはおらず、この時点でそのことは判明していたのだが、ほぼ同時刻に中央でテロがおこり、その処理のために中央の軍は右往左往していた。
「誰かが連絡するだろ」精神が蔓延し、不通がわかったのは次の日の早朝。
ちなみにその日、残業はいつもより二時間延びたのだという。
しかし、今この時間を生きる二人にそんなことはわからず、ひたすら待ちぼうけを喰らわされている彼らは、ただしんしんと苛立ちと不満を募らせるばかりである。
「……寒い」
ポツリと、夕立が降るかの如く、ロイが呟く。
ただ事実が言葉としての存在を持っただけのようであるが、沈黙に嫌気がさし始めていたハボックは、いっそ憐れなほど、あっさりそれに喰いついた。
「あー……けど、今月は経費切りつめないと危ないって、経理部に言われてますしねェ……何なら、植えつけられてる木でも燃やしますかすみません冗談ですマジで勘弁してくださいって!」
おもむろに窓を開き、発火布をこすりあわせる準備万端といったポーズをとったロイを、ハボックは後ろから羽交い締めにして止めた。
もとより本気ではなかったらしく(でなければ困る)、ロイはあっさりと窓辺から離れ、ハボックはそれに安堵した。ここで木を燃やしても、それがハボックの責任であるという証拠をロイが集めてくるであろうということは、実に安易で確実な予想だ。
やれやれと、ひとつ肩で息をして、ロイが机の上に腰かける。なんだか名残惜しそうに、その目を木に向けているのは気のせいだと信じたい。いや、信じる。
しかし、再び無音の時が訪れると、ハボックはまた居心地が悪くなった。
もともと、話術がそれなりに評価されたことが推しとなり、軍への入隊が決まったとの話も聞くほどの喋り好きだ。まして、せっかくロイと二人きりなのに、何も話さないというのはもったいない気がする。
そして、よせばいいのにハボックは、ロイに向かって話しかけた。ロイの冷たい視線が痛い。
「ちょっと訊いてもいいですかね、大佐」
「何だ」
「大佐って、味付けは甘いのと辛いの、どっちが好きですか?」
「……何?」
心底不思議そうに訊き返してきたロイに、ハボックは開けっ放しの窓際まで歩み寄ると、手の届く範囲にあった雪をすくい取りだんごにして、ロイに見えるよう掲げた。
「じゃ、これが甘いと思いますか、辛いと思いますか」
「いや、それは雪」
「じゃなくて、どっちだと思います?」
「……何故そんなことを訊くんだ?」
諦めたように吐息して、ロイが疑うように問うてくる。ま、確かにそう思うのも無理ないかと思い、雪のだんごをもう一度強く固めてから、手中で転がす。
「いや、そういえば知らないと思って。こんど何か作ってくる時、大佐の好みの味にしますよ」
「……別に、どっちでも構わんがな。苦いのは苦手だが、辛いのは元から好きだし、甘いものは女性にあわせるために好きになったしな」
べちょ、という音がして、人体体温によって中途半端に溶かされた雪玉が、床に落ちた。
「あ」と声をあげたのはロイで、ハボックは、信じられないといった表情でロイを見つめていた。
「好きになったって……大佐、甘いもの嫌いだったんですか!?」
「嫌い……というか、あまり食べなかったな。忙しい時、カロリー摂取に役立てた程度か」
「うわっ! そんな話は聞きますが、本物に会ったのは初めてです」
「……何だ。その、珍獣でも見るかのような目は。言っておくが、今は普通に好きだぞ?」
不機嫌そうに鼻を鳴らして、ロイが応える。ハボックは驚愕の尾を引きながらも、「あァ、そんなもんですか」と生返事をした。
「で、どっちがいいですか? 何なら、メニューも聞けるかもしれませんけど」
「……辛いものかな。なにせ、こう寒くては」
諸手を広げたロイの皮肉に、ようやくハボックは、窓を開けっ放しだという事実に気がついた。
いや、実際に開けっ放しなのはロイなのだが、ここで閉めねばならないのはハボックだ。
ハボックは、慌てて窓を閉めた、サッシにわずかに降り積もった雪が、軽い音を立てて薙ぎ払われていく。室内気温は、比べるまでもなく下がっていた。
ハボックは、そろりそろりと振り返った。ロイは、憮然とした表情で腕を組んでいた。
奇妙な沈黙がはびこる。それが嫌いだったはずのハボックも、このままこれが続いてくれないかなと思ったりなんかもした。
だが、その願いは聞きとげられない。
「寒い。管理室に行ってストーブでも借りてこい。経費はお前の給与から差し引く」
無駄のない、命令としての言の葉。肯定の返答しか受けつけないという無言の圧力。仕方ないかと息をつき、ふと窓の外に目をやったハボックは、思い出したかのように外を指差した。
「あー、でも大佐。管理の爺さん、今散歩してますよ」
「何?」
「ほら、あそこ」
「こんな寒い中をか?」と続けるはずだったロイの語尾と重ねるように、ハボックはぬけぬけと続ける。
ロイは疑いに眉をひそめながらも、机から離れて窓辺に寄った。ハボックは道を譲るように脇にどく。
ロイは外を覗きこんで、目をすがめた。視力には自信があるのだが、この白の世界に映えるはずの藍の軍服はどこにも見当たらなかった。それどころか、人影すらも存在しない。
「おい、どこにもいないぞ、ハボック少尉」
苛立ちを含有させたまま、ロイはハボックの方を振り向いた。
その視界を、白に慣れた感覚を埋め尽くす、金の色彩。
己よりも少しだけ背の低いロイにあわせて身をかがめたハボックは、小さな笑みに歪めた唇を、愛しい人のそれに重ねた。
ただ、重ねるだけの静かなキス。
ただそれは、永遠に似せるかのような長さで。
息がつまるほど、忘れるほどの時間を、二人はそのまますごした。
やがてハボックは顔を離して、ふうと息を吐いた。動こうとしないロイの方に視線をやってみると、ロイはキスされる直前と同じ、きょとんとした表情のままハボックを見上げていた。
その、間抜けとも言えるような表情に、ハボックは引きつるように笑いをこらえた。
「えっと、大佐ァ?」
間延びしたかのような呼びかけ。それで我を取り戻したかのように、ロイは一度長く瞬きをして――その頬にさっと朱を走らせて、片手の甲を口に押しあてる。狼狽の色は濃い。
「なっ……! いきなり何を……!」
手の甲で口元をゴシゴシこすられたら、さしものハボックも多少ショックであったが、ロイは今、そこまで頭が回っていないらしく、ただうろたえる目でハボックを見つめていた。
ハボックは、微笑むように笑いながら、ロイの反応を楽しんでいた。
こんなふうに、この人が行動を返してくることが、心臓の上に手を置くよりも、自分が今生きていると実感できる。
「でも、体温まったんじゃないんスか?」
ハボックが悪びれもせずにそう言う、ロイの平手と焔が舞う3秒前。
後日しばらくの間、ハボックが家政婦同然に扱われたのは、また別の話。
流夜の素敵サイトにて臆面もなくキリ番踏みまくったその証の宝が今此処に(殴)
どうしましょう。嬉しさの余り表情筋が元に戻りません(放って置きなさい)
もうホントまともな思考回路保ってられないんで、意味不明な内容ですが見逃して遣って下さい。どうせいつもの事ですし(殴)
大丈夫です、報われてます、ハボック(笑)
ウチのハボならキス直後に顔面に拳骨喰らってます。平手ではなく、手加減なしの右ストレート。それでも幸せそうに笑っているのが我が家のハボック。
そして家政婦同然に扱われるならまだしも一週間その場にないモノとして扱われます。徹底無視です。不憫な…(お前が書いてるんだろう)
と言うか、流夜の書くハボックとロイの距離感が好き。ツボ(煩)
ああ…これだよ、本来のハボックは。本来のロイは。
俺の書くロイはただ情けないだけだが、流夜の書くロイは無能なんだけど情けないんじゃなくて無能で可愛い。疑いながらも結局最後には信じてそれで騙されて不意打ちされるうっかりで詰めの甘いロイが愛しい(それは褒めてるのか)
俺の書くハボックに至っては腹黒なんだかただの犬だか解らなくなっているのに、流夜が書くとこんなにも爽やかじゃないか。何だこの違いは(力量の差だと)
しかも俺の無駄な語りまで織り込んで下さるとは…!
そうです。ロイは苦い味が苦手な甘ちゃんなんです(そんな事は言ってない)
感謝の余り言葉も出ない物書きにあるまじき体たらくですがこの上ない至福とだけ申し上げて持ち逃げさせて頂きます(待て)
どうぞこれからも末永く…(土下座)
斎雅 月 拝
2004.7.15
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