神に感謝





居心地が悪い。

鋼の錬金術師と隣同士で座りながら、焔の錬金術師はそんなことを思っていた。

腕を組んで背もたれに体重を移すも、それにも反応することなく、エドはジュースをすすっている。





――誕生日パーティしてやる!

自信に満ち溢れた、イタズラ小僧そのままの顔で、今日の夕方ロイの部屋に飛び込んできたエドはそう叫んだ。何だか口調がやけくそ気味だったので、何故かとこっそりアルに問えば、一週間ほど前から手紙やら電話やらで招待しようとしたのだが、いまいち決め手にかけると悩み続け、結局キレて部屋への突撃を決行したそうだ。あー、こんなトコを抜粋してみればカワイイものなんだが。

しかし――と、ロイは小さく首をひねった。まさか自分が、自身の誕生日を忘れるとは。憶えておけば、彼女たちに何かねだれたかも知れないのに。

だが、それよりもまさかと思うのが、この少年が自分の誕生日を覚えていてくれたということだ。様々なことに関して無頓着な彼にしては、破格の記憶力であろう。

「礼を言うべきかな? パーティを開いてもらったことに関して」

「別にいらねーよ。こっちが勝手にやってることだし」

その一言で、こちらがどれだけ救われたか知らずに、エドが素っ気無く返す。それから、ずっとそらしていた顔を正面にやって、じっとこちらの目を見上げた。軽く顎を引いて、少々間抜けといえる表情に、なんとなくひるむ。

「……何だ」

「口あけろ」

「は?」

「いーから!」

何故か怒ったような剣幕で迫られて、ロイは仕方なく言われたとおりにした。すると、その口内に何か丸いものが転がり込んできた。

「……?」

「やる。誕生日プレゼントだ」
やはりどこか悪戯っぽい表情で、少年が言う。コロコロと表情が変わるところもまた幼くてかわいい。

口の中にあったのは、親指の先くらいの大きさの飴玉だった。コーヒー味で甘さは控えられているが、少々甘ったるかったケーキを食べた後では、これくらいの方が丁度良い。舌の上で転がせば、落ち着いた味が味覚を満たした。

「美味いな」

「何だよ。何かもらったら『お礼』じゃないのか? それとも、錬金術でなんか創ってやろうか?」

言いながら、パンと両手をつき合わせる。『鋼の錬金術師』は、最年少で国家錬金術師になっただけでなく、錬成陣なしで錬金術を発動させることができるということでも有名であった。

ロイは一瞬、ふむと考えて、それからエドの細っこい肩を掴んだ。

何事、とエドが訝る隙も与えず、その頬に軽く口づける。

「――んなっ!?」

「礼はそれで充分か?」

素直に顔を真っ赤にするエドの様子がおかしくて、ロイは目を細めながら問うた。襲いくるであろう罵倒に備えて、意識をかたくする。しかし、エドは頬を押さえていた手を外して、勝ち誇ったかのように不敵に笑んだ。

「バーカ」

呟くと同時、エドの手が伸びてこちらの襟首を掴み、ロイの唇に自らのそれを押し付けた。

視界いっぱいに広がる黄金。

刹那がいくつか繰り返される、小鳥が餌をついばむような軽いキス。

「礼ってのは、これくらいするもんだろ」

はにかみながら、顔を離したエドが誇らしげに言う。

ロイはただ呆然として、唇へと指先を持っていった。そこに、やわらかい感触と温かみが残っている。

「……やられたな」

どんなに突然唇を奪われようとも、軽く冷静にかわしてきた男のものとは思えない言葉が漏れた。

そして、今にもあふれ出しそうな幸福感と共に、部屋の天井を見上げて吐息する。







ああ、親愛なる――とまで言える関係があるわけではないが、神様へ。

この世に誕生日という日を作ってくれたことを、心より感謝します。













やっぱり、色々言ってみるモノですねぇ…。
流夜サマから誕生日プレゼントとして頂きました!
ロイエド!しかもロイの誕生日設定!!
うわぁ…俺もエドに祝って貰いてぇなぁ…(無理)
そんなこんなで。
これからもどうぞヨロシクお願いします(何を)











2002.11.8









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