太陽を抱く者







時々でいいから。

時々でいいから。

それでも、君の側にいたい。





「――鋼の」

窓辺によりかかり――彼の場合、『ぶら下がり』か? 言ったら怒るが――、ボーっと外を眺めていたエドを見つけて、ロイは思わず声をかけていた。

呼ばれた相手は、廊下でだらしなくしていたのがバレて、さすがにバツが悪いのだろうか。
「大佐」と答えた次には、すぐさま国家錬金術師らしく姿勢を正していた。

失われた身体の部分を補う『機械鎧【オートメイル】』が、その動きにあわせて金属の音を立てる。

「どうした。こんなところで」

「いや、ほら、外雨だろ? だからアルに傘取りに行ってもらってんだ」

窓の外を指差して、悪びれもせず答える。
確かに、鎧だけの身体を持った彼なら雨に濡れてもどうということもないが、だからといってそれはそれで酷くはないか?

そんなことをふと考えてみるも、別にどうでもいい気もした。
アルは別段それくらい気にもしないだろうし、どうせ鎧の中に雨に濡れていた子猫を隠し持つ報復ぐらい起こるのだから。

ふう、と息をついて、指先を追って外を見やる。
軽く降り続く雨は、視界へとはそれほど影響を及ぼしはしないが、彼らの泊まる宿へ戻るには、いくら走っても風邪くらいひきそうだ。

「言えば、傘ぐらい貸したのだがな」

「う……それはアルにも言われたけど……」

何故か口ごもりながら呟いて、エドは再び窓の外へと視線を向けた。
すぐ外にある木の下で、鳥が雨宿りをしながら毛づくろいをしていた。

「けど……何だ」

「外、雨だし」

「わけがわからん」

遠まわしな言葉にさすがにイラついて、ロイが少々荒れた声で問う。
それでもエドは外を見つめたままで、ボーっと、心ここにあらずの表情を続けていた。

封筒を掴んだままの手で、額を軽くかく。
会議のために廊下を進んでいたわけだが、どうにも離れづらい雰囲気になってしまった。

「私は、雨が嫌いだがな」

「無能になっちゃうからですか? 大佐」

わざわざ敬語に直して、エドがおかしくてたまらなさそうに声を震わせる。

「確かに……それもあるがな。この纏わりついてくるような感覚が、どうにも好きになれん」

まるで、空間が、すべての存在が、自分を責めたてているかのようで。

この手で奪ってきた命が、明らかにした罪が、お前のせいだと呪ってくるようで。

子供のような言い分だが、ロイにとっては重要なことであるような気がしてならなかった。

「俺は、好きだけどな、雨の日って」

淡い微笑みを口元に宿して、エドが言う。
そのしんみりした口調に引っかかりを覚えて、話を切り上げるために用意した言い訳を呑み込んだ。

「ほう。是非とも聞きたいな。何故上司が無能になる日がそんなに好きか」

「いや……別に「そんなに」ってほどじゃ……怒ってんの?」

罪に思っている感情などまるきりない瞳で見上げられ、ロイは一瞬反応を迷ったが、いつも通り鼻を鳴らして受け流す。

それが自分を責めているわけではないと知っているエドは、今度は窓に背を向けて、廊下の床を見つめながら語り始めた。

「母さんが、雨の日に洗濯できないってもらしてた時、雨の日なんかなくなればいいのになって言ったら、笑って返したことがあるんだ。
 『雨の日は、太陽が泣いてる日だから、私たちは我慢しなきゃいけないのよ』って」
突然始まった昔話に戸惑いつつも、ロイは話の重さに口を開くことができなかった。

普通の会話ならば、「何をのろけてるんだ」と言ってオシマイなのだが、彼の場合その事例は当てはまらない。

禁忌の術を作動させ、錬金術師として最悪の罪を犯した原因である母。

そんな記憶を彼自らが語るなどと言うのは、かなり珍しい――否、前例がない。

「ガキの頃の記憶だけどな。なんかそれ以来、雨が嫌いになれないんだ。不思議だろ? マジックだ」

しかし、重い内容であるということを考えているのはロイだけのようで、エドはどこか自慢げに、ロイに向かって微笑んで見せた。

その、黄金に輝く髪は、まるで太陽のようで。

一瞬、視線がそらせない。

「あっ、アルだ」

自分を呼ぶかすかな声に振り向いたエドが、声を上げる。

確かに、雨の中、その体躯とは不釣合いな傘をさしたアルがピコピコと手を振っている。
隣に立てば、ガシャガシャとうるさいわけなのだが。

「んじゃ、俺もう行くから。大佐、またな」

足元に置いていた荷物を手にとって、今にも歩き去ろうとしたエドに声をかけられる。

「ん? あ……ああ」

我ながら情けなく、考え事をしていたロイは、その呼びかけにこれだけ答えるので精一杯だった。

スタスタとした速歩きが、段々と速度を増して、やがて小走りになっていく様を見届けたロイは、視線の居所を探して雨の空間へと矛先を向けた。

その視線で兄の姿を追っていたアルが、こちらに気づいてペコリとお辞儀をする。
それにつられてこちらも返しそうになり――兜を押し出して現れた大量の子猫に、思わず絶句したまま固まる。

あたふたと猫を追っかけまわしている首なし鎧から視線を外せば、鋼の錬金術師はすでに、何故だか全速力で走り出していた。
かなり急いでいる様子だが、罵倒が聞えないということは、外の様子には気づいていないらしい。

何となくそれに安堵して、再びアルの方を見てみれば、彼は何事もなかったかのようにそこに居た。
足元に散らばっていたはずの子猫も兜も、一瞬にして定位置に戻ったらしい。その早業こそ、まさにマジックだ。

そ知らぬふりで傘をさすアルの様子がなんともおかしくて、ロイは喉を震わせて、けれど声を押し殺して笑った。

「――大佐」

背後から、凛とした声音で呼び止められる。
一瞬で表情を殺して振り返れば、ホークアイが少々不機嫌そうに歩み寄ってきていた。

「どうされたのです? 会議、もう始まっていますよ?」

「そういう君だって、遅れてるじゃないか」

「私はすでに書類による確認済みです」

さも当然――いや、当然なんだが――といった様子で反論してくる部下の小言を無視して、ロイは最後に、もう一度だけエルリック兄弟の方を盗み見た。

金髪の少年が、鎧の弟に向かってトルネードキックを放っていた。

「――ですから、いつも大佐は……聞いていますか?」

「中尉。少し、訊きたいのだがな」

「どうぞ」

「錬金術師に、太陽は作れるかな?」

ロイはごくごく真面目に訊いたつもりだったが、何せ普段そういう漠然としたことを言わない性格のためか、ホークアイは「黄金の錬金術は禁止されていますが」と、厳しい目つきで答えてきた。

それに苦笑いを返して、ロイは会議への道のりを歩き出した。後ろから、軽快な足音がついてくる。

視界の隅できらめく黄金を見た気がしたが、今度は、振り向かなかった。

今振り向いたら、二度と視線がはがせなくなる気がして。





太陽になろう。

いつでも君の足元を照らす、太陽となろう。

だから、君にはいつまでも、太陽でいてもらいたい。





――後日談として。

ロイ・マスタング国軍大佐は、三日後が自分の誕生日ということを忘れていたわけで。












これの前にUPさせて頂いたBirthdayPresent小説の、三日前と言う設定になります。
もう、何て言ったらいいのか。
・・・。
ともかく。
どんなに素敵でも勝手に持ち帰ったりしないで下さい!
この小説は俺のです!!
懐が狭いとか勝手に言いやがれッ!
何言われても俺のモンじゃ〜〜〜〜ッ!!(何)




2003.11.13














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