この小説は、いわゆるパラレルというジャンルに含まれると思われます。
設定として、ハボックはウロボロスの一員、通称ハボロスです。
「そんな馬鹿な!」と思われたり、受け入れられない方はお戻りくださいませ。
あと、ハボックが腹黒いです。そんな気持ちで書きました。実際はグレーくらい。

以上をお読みになられてから不快感、嫌悪感を催された場合、
当方では責任をとりかねますので予めご理解とご容赦を。


ご理解頂けた方のみ、どうぞ。



















始まれば、終わるしかない関係の中で

天秤は狂ったように目盛りを無視していた







明日には緩やかな裏切りを







シャワーから放たれた湯を、顔から浴びる。油っぽいものでギトギトになっていた髪が、少しずつながら元の姿を取り戻していった。
といっても、己でさえ鏡で見慣れてしまった姿ではない。本当に、すべてが自分のものである姿に。

まだ違うのは、眼だけだ。それも、湯からあがったらすぐに色を戻させるつもりだ。黒という色を強制的に空色に変えるコンタクトは、存在だけで眼に相当の疲労を要していた。

けれど、彼はこの姿が嫌いだった。
何もかもが与えられた、不変の姿。未だ彼に縛りつけられているのだと、どうしようもなく思い知らされる。そんなのとっくに、わかってはいるのだけれど。
本当の自由が与えられていたとしたら、軍など辞めて、どこか遠くへ行きたい。こんなふうに、毛色を変えずとも生きていける場所へ。

馬鹿馬鹿しい。ハボックは己を嘲った。叶いもしない考えに意識を使うのをやめる。
遠くへ行って、それからどうする? 愚かな人間どもと共に生きてみるか? 朽ちることなどありえない体を隠しながら、時に移動し、死ぬこともなく……くだらなくなって、ハボックは無意識に肩をすくめた。

どうせ自由と言ったって、自分たちに与えられるのはこの程度の分量だ。それに比べて、女はいい。少し優しくすればすぐ懐いて、ロマンスを求めようとすべてを捧げてきてくれる。それだけに儚く、離れるのも早いが、それもまた都合がよかった。

蛇口をひねって、水を止める。水気にまみれた浴室から出て、犬のように頭を振って水分を落とすと、タオルを頭の上に乗せて、散乱しっぱなしの服を適当に着た。どうせ染め直した後、もう一度浴びねばならない。それを面倒に思いながらも、鏡の前に立つ。黄金の色を追い出した黒髪がまんべんなく洗えているか確認した後、指を目の上下にあてると、虹彩すべてが空気に触れられるように開かせ、その表面に触れた。セルリアンブルーが外れ、その下から、どす黒い光が現れた。少し乾いた目を潤すために瞬きをしてから、コンタクトをしまい、廊下に出る。

そのまま居間に入ろうとしたが、そこにいる先客を認めて、足を止める。


「今晩は、ハボック。いい夜ね」


ソファの背もたれに腰をおろし、なめかましく座っていたラストが、髪をかきあげる。ハボックはもう慣れたもので、特に驚くこともなく、ため息をついていた。


「また勝手に入って……今度はいったい何の用だ――グラトニー!」


ラストとは少し離れたところにいる巨体に、ハボックは叫びをぶつけた。グラトニーが驚き、怯えている間に歩み寄り、その手に合った灰皿を舌打ちと共に奪い取った。


「何度言えばわかる! 俺の家の物に勝手に触れるなと――!」


と、ハボックは話しかけられたかの如く灰皿の方に視線をやった。だらりとした腕に無造作に掴まれた灰皿から、何かがずれるような音がした後、それは半分に割れ、片方は床にごとりと落ちた。
ハボックは鋭く目を細めると、手に残った半分を忌々しげにごみ箱に叩きこんだ。


「ざけんな! これがいくらすると思ってんだ!」

「違う! 今のはハボックが――」

「んな見れば誰でもわかるようなことをわざわざ言い訳するなグラトニー!」


再び怒声に殴られて、グラトニーは情けない声をあげながらラストの方へ走って行った。ラストはグラトニーの頭を優しくなでながら、楽しげに笑っていた。そうしていれば、誰がどう見ても「いい女」と認めざるを得ない。
赤い唇が、ゆったりと開く。


「怒鳴るのはやめてちょうだい。今日は一段と虫の居所が悪いのね……まるでラースみたい」

「誰があんな――!」


再び叫ぼうとして、ハボックはその先を噛み殺した。
ラストが言う通りだ。叫び散らしたところで、何も変わらない。変わるとしたら、グラトニーが怯えるか否かなところだけだろう。一度深呼吸して、まだ湿っている黒髪を指でかきむしった。
嫌になる。今のこの部屋に、本当の意味での生物は一人もいなかった。

首を振って気を落ち着かせながら、箱が握り潰された煙草を取り、火をつける。本当ならすぐに髪を染め直すつもりだったのだが、この二人を無視するわけにもいかないだろう。


「怒りに任せて動かないで。貴方怒ると、触れるものすべて壊そうとするじゃない」


口元から笑みを消して、頬杖をついたラストが静かに言う。ハボックは煙を吐き出しながら、そういえば灰皿がないんだったと手短な空き缶に灰を落とした。


「まったく……軍にいる時あれだけ猫を被れるんだから、私たちといる時も感情のコントロールくらいしなさいよ」

「労りの言葉、身に染みますよ、色欲。こっちが俺の本性なんだからしょうがないだろ。黙っててくれ。昼間だけで充分ストレスたまってるんだ。それとも、勢い余って焔の錬金術師を殺してもいいってのか?」


話し方を元に戻しながら、裏切られるとわかっているほんの少しの期待を込めてラストに訊く。彼女は不快を表すかのように眉をひそめた。


「グラトニーのこと言えないわね。貴方こそ、何度言ったと思ってるの? 却下よ。大切な人柱候補をそうそう殺せるものですか」

「だったらあいつの見張りから俺を外してくれ。死なせたくないなら、ラースに糸引いてもらえば充分だろ」


イライラするのだ。あの男の傍にいると。こちらを信頼しきって、ことあるごとに大総統への志を話す錬金術師。叶うことは絶対にないと知らず、達成するための助力を求めてくる哀れな男。

こちらの機嫌が再び悪くなったのを悟ってか、ラストは細く長い足を組み直した。本題に入る気らしい。


「無理よ。お父様の命令ですもの。それで、今日の用件だけれど、この間の連続殺人の件、あと三日以内に解決するように仕向けてちょうだい。殺人犯のデータなら、そこにあるから」


ラストがあごをしゃくった先に、机の上に乗った書類が何枚かあった。ハボックはそれらを一瞥しただけで、特に中身を改めようとはしなかった。
床にしゃがみ、小さな突起に爪を立てて、調べれば簡単にバレるが普段の生活では知られることのない床下倉庫の扉を開いた。小さな空間にひしめきあっていた染髪のボトルを取り出して、ラストの方へと向き直る。


「で、用件はそれだけか?」

「ええ」

「だったら消えてくれ。言われたことはやる」


そう告げると、ラストは実に満足そうに笑った。音も立てずにソファから立ち上がり――その背後のグラトニーが二人分以上の物音を立てているが――、扉の方へと向かう。


「情を移しちゃダメよ、ハボック」

「誰に?」


ハボックは疑問に思って問いかけた。


「焔の大佐。そんなことで裏切られたらたまらないわ」

「あの男に? 俺が? 冗談がうまくなったな、ラスト。あんな男のために死ぬくらいなら、単身で反旗をひるがえすぞ、俺は」


浴室へと続く扉に手をかけながら、皮肉を言う。ラストは唇をひきあげて、にっこりと笑った。


「そうね。お父様に対する忠誠心だけは信頼しているわ、『大破壊』」












翌日。軍の廊下を歩きながら、ハボックは昨夜与えられた情報を整理していた。
ロイに分け与えるタイミングと量を誤ってはならない。疑うことを許せば、せっかく編んだ糸がどこからほつれてしまうかわかったものではない。常に忍び足で、慎重に。

と、ハボックは立ち止まって辺りを見回した。
ここはどこだろうか。中央に異動になってからまだ日が浅い。考え事をしていたがために、足は慣れた道を行こうとしたらしいが、その先に無論目的地があるはずもない。
ハボックは窓に寄ると、景色から大体の位置を掴んだ。それから、手元の時計を見やる。急げば約束の時間には間に合いそうだ。まったく、人間という生き物は、どうしてこうも時の流れを相手に生きて平気なのだろう。心底不思議で、ため息をつく。


「ハボック少尉」


存在は気配でとっくに察知していた男が、呼びかけてくる。ハボックはすぐに振り向くと、軽く笑って見せてやった。作り笑いも、ずいぶんと慣れてきたものだ。


「どうしたんです。迷子ですか、大佐」

「それはお前ではないのか。私は今、令の連続殺人に関する情報を大総統から受け取ってきたところだ」


何だ、ラースも動いてるんじゃないか。先に言わなきゃ、食い違ったらどうするつもりだ。胸中のみで舌打ちしながらも、表情には一切出さない。
どうにかして、ラースから託された情報の内容を知らねばならない。そう思ったハボックは、さしたる問題もなくそれを行う、一番手っ取り早い方法を選んだ。


「へェ、大総統も動いてるんスね。なんか新しい情報ありましたか?」

「そうだ。お前も読んでくれないか。たまに鋭いことを言うから、役に立つ」

「別にいいっスけど……歩きながらでもいいですか? 俺、書類提出しなきゃならないんで」

「書類? 何のだ」

「大佐宛じゃないっスよ。今度の査定に関する調査です」

「査定……ああ、もうそんな時期になるんだな」

「気楽でいいですよね。軍に入れば免除されるからって」


ロイと普段通りの軽い会話をしながらも、ハボックの視線は渡された書類の上で踊っていた。昨夜ラストに与えられた情報の中に、色違いの文字で書き込むイメージを作り出す。
犯人の正体も居場所もわかっているというのに、それを教えられないのは面倒くさくてならない。しかもこれが解決したら何がおこるのかも、自分は知らない。不公平なものだと、今更ながらに思う。

一通り目を通し終わったところで、ハボックはそれをロイに突き返した。情報を整理してから意見したいという、あながち嘘ではないことを告げると、ロイはただ「あァ」とだけ返事をした。


「それじゃ、俺はここなんで」


ひときわ大きな扉の前で立ち止まり、誰もいないかざっと確認すると、ハボックはロイの前髪を素早くかき上げて、現れた素肌にキスをした。
両手を紙の束に支配された相手はろくな抵抗もできず、二歩ほど下がってハボックを睨む。けれど、なけなしの冷静を制御して叫びを上げるのをこらえると、すぐに背を向けて歩き出した。

ロイがもう振り返ってはこないだろうとわかっていながらも、ハボックの口元に宿った笑みは消えていなかった。けれどそれは、先程までの暖かみあるものではなく、光の届かない海の底のような、暗く冷たい笑み。

あの男が、自分の背にとぐろを巻く蛇の存在を知ったらどうするだろうか。唯一無二の親友を噛み砕き殺し、お前の知らないところで世界を動かす有翼の蛇。己の尾を追うという愚行の中に、人間が求めてやまない永遠を隠し持つ破壊の生き物。その刺青を、自分は背に刻まれている。

己が何の疑いもなく信じていた人間に最初から裏切られていたとわかった時、人はどんな顔をして絶望とするのだろうか。それを味わったことのないハボックは思い浮かべ、喜悦に笑った。

これは、ゲームなのだ。正体に気づかれず、獲物である相手にどれだけ近づけるか。それには、恋人という隠れ蓑は非常に役に立った。相手がどれだけこちらを信じ、もしくは疑っているのか、その情報が集めやすい。

ラストに決定権がなくてよかった。昨夜の言葉でこの任から外されていたら、後悔していたかもしれない。

あの男を殺すのは、壊すのは、俺だ。それだけは、誰にも譲れない。例え、ウロボロスの頂点に立つ者に逆らうことになろうとも。

それは、愛情という名の独占欲によく似た、狂気だった。
















俺がハボロス(ハボウロ、ウロハボとの呼称も有り)の素晴らしさを教えたと言って下さいましたが、俺のほうこそあの下らない萌え語りを受け止めて下さって有り難う御座いました!
その上こんな素敵な小説まで書いて頂いて…!何だか悪い事しているような気が…(本当にな)
大丈夫です!黒いです!このハボ黒いです!!俺の黒ハボウロ読み返したら全然黒くなかったです!(ぇ)
つーかうわもうホントどうしてくれよう愛してます流夜!貴方は俺の心の恋人です!(やめれ)

リク快諾有り難う御座いました。





斎雅 月 拝





2004.9.19

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