燃えるような痛みと共に与えられた現実は。

覚悟していたとは云え。

恐ろしく、残酷。





†終焉を臨む者へ声なき讃歌を† エドver.





「何やってるのさ、兄さん!!」

扉から入ってきた人物は、エドワードを怒鳴りつけた。
それは、たった一人の肉親である、弟で。
其の後ろには、扉を背で塞ぐように立つ女性。
霞んだ視界では、ハッキリと認識できないけれど。
おそらく、ホークアイ中尉だろう。

「兄さん!自分が、何したのか解ってる!?兄さん、何で、あんな…ッ」

泣きそうな声で。
それでも、心配の余り込み上げる怒りで。
アルフォンスは、エドを怒鳴りつける。

何て無茶を。

エドは苦笑して、アルを見上げる。
声を、発しようとして。
それすらも、出来ず。

鎧の腕に支えられ、助け起こされる。
咳き込み続けるエドに、アルフォンスは叱りつける事をやめ、
ベッドサイドにおいてあったコップの水を、差し出した。

受け取った其れに、口を付け。
冷たい水に、徐々に拭われる意識の霧。
晴れた思考と視界。



嗚呼、ハッキリと、覚えている。

ロイに傷を負わせた者達を。

自分は、一人残らず、抹殺した。





あんなにも、人を手に掛ける事を嫌がっていたのに。
人間兵器として召集される事を、あんなにも怖れていたのに。

そんな事。
ロイの傷ついた姿を見れば。

どうでも良い事だった。

闇に紛れ。
ロイを退け、油断しきっている、敵を。
俺は、殺した。



銃を過信している者達は。
機械鎧を刃に変えたエドの攻撃に、為す術もなく。
あっけないほどに、倒れていった。

だが、その中に。
たった一人。
錬金術師。

不意に、死角から放たれたのは、焔。

襲い来る既視感。

けれど、彼は此処に居るはずがない。
彼が、自分に殺気を向ける筈がない。

一瞬の後。
振り向きざま、分解。

降りかかる、血潮。

頬に付着した其れを拭い。
背後から現れた気配を、振り向かず、切り捨てる。


長い時間。
数えるのも億劫で。
自分がどれだけの命を奪ったのかも知らず。
ただ、抱いた怒りと憎しみだけで。
闘った。


そして、油断。


錬成のため、動きを止めた一瞬。
左右から、複数の人間に斬りつけられる。
右腕で、その刃を受け止め、振り払った瞬間。

腹部を打ち抜かれた。

体勢を崩しかけた所へ、左肩を打たれる。

その衝撃は、痛みより熱として知覚され。

咄嗟に、周囲の人間を切り倒し。

そこから、意識は途絶えた。





エドはゆっくりと、部屋を見回した。

そして、問い。

「なぁ。…大佐は?」

自分がどうやって助かり、この場にいるのか。
そんな事は、どうでも良くて。
一番気掛かりな、彼の事を。

だが、アルフォンスも、ホークアイも、ただ、黙して。

再びの、問い。

「………ロイは?」

落ちる、沈黙。



…なぁ。

なんとか、言ってくれよ。



弱々しい笑みと共に、零れたエドの呟きに。
アルが、ホークアイを振り返る。

ホークアイが、歩み寄り。
エドの傍らに、立つ。

そして。

「…案内します」

一言、告げ。
踵を返す、ホークアイ。
その表情は読めず。

けれど、ロイの元へと連れて行ってくれる。

その事への、喜びで。
エドは、上体を起こしているだけで辛い躰で、ベッドを降りる。
走る激痛に、よろめくエドをアルが支える。
それでも、己の脚で歩いていこうとする、エド。
アルは不安げにそんなエドの背中を見送り、自分は病室に留まった。

ホークアイが扉を支え、エドが部屋を出た時。
ちらりと、アルに視線を寄越し。



瞳を、伏せた。



重厚な音をたて。
病室の扉が、閉じられる。

一人残されたアルは。

壁に背を預け。
座り込んだ。





「…エドワード君」

辿り着いた、扉の前。
ホークアイが、扉に手を掛けたままの姿勢で、語りかける。

「…覚悟は、…ある?」

開かれる、扉。



たった、一言。

けれど、其れだけの言葉で。

全てを、理解してしまう自分を。

この時程、恨んだ事は、ない。



顔を俯かせたエドを振り返る事なく、ホークアイは室内へと入って行く。
震える脚を叱咤しながら。
エドが、室内へと脚を踏み入れる。



突きつけられる、現実は。

果てしなく。

恐ろしく。



残酷。



まるで、夢遊病者のように。
頼りない足取りで、愛しい人の眠るベッドに歩み寄り。
淡い光に照らされた、その顔を覗き込む。

ホークアイは、音も立てずに部屋を出ると、静かに扉を閉めた。



まるで、眠っているかのように、穏やかな。
けれど、血の気はなく、真っ白な。
ロイの顔を、静かな瞳で、見詰める。

「…馬鹿だなぁ…」

ぽつり

落とされた言葉は。
冷え切った室内に、散る。

「アンタまた、こんなトコで、サボっててさ。中尉に怒られても知らないぜ?」

白い、虚空に。
エドの声が、響く。

「あ〜ぁ。こんな寒い所で寝てるから、こんな冷えちゃってさ」

冷え切った頬に滑らせた、左手の指。
額にかかる黒曜を思わせる黒髪を、払い。
小さく笑う。

「相変わらず、寝顔はガキみたいなのな」

顕わになった額に、羽のような、口付けを。

掛けられた、白いケットに隠れていた手を、取り出し。
エドは自分の両手で、包み込む。
包み込んだロイの手に、口付け。

「…なぁ」

密やかに、囁く。

「なぁ。アンタ、いつまで寝てんだよ」

焦れたように。
拗ねたように。

「いい加減、起きろよ」

語りかける。



起きて。

瞳を、開けて。

俺を、其の瞳に写して。



「…なぁ。…ロイ」



声を、聞かせて。

俺に。

声を、聞かせて。



「…ロイ」


名を呼ぶ、声は。


「起きてよ、…ロイ」


虚しく、響く。



エドは、ベッドの傍らに膝をつき。 ロイの手を包み込んだ己の両手に、額を付け。
祈るように。
眼を、閉じて。

ゆっくりと、眼を開き。
ベッドサイドの、淡い光を灯す照明の下。
白い一枚の紙片を見つける。





【親愛なる エドワードへ】





見慣れた文字で綴られた、自分の名前。

左手は、ロイの手を握ったまま。
右手を、伸ばし。

震える指で、紙片を開く。





【―――親愛なる エドワードへ

 伝えたい事は沢山あるのだが
 どうやら もう時間がないらしい

 鋼の。
 君は 私にとって太陽のような存在だった
 様々なモノを与えてくれるのに
 手は 届かない
 けれど 私は
 そんな君が 掛け替えがなく
 何よりも 大切で 愛おしかった

 最後まで君を助けて行くつもりだったが
 それも 出来なくなてしまった

 …君を置いて逝かなければならないようだ

 済まない

 …有り難う 】





最後の一行まで読み終えたエドは。
紙片を折り目通りにたたみ直し、傍らに置いた。

そして、贈り主の顔を見。



「やっぱ、アンタって…馬鹿だな」



そう呟いたエドは。
困ったような苦笑を浮かべ。

云う。

「…俺は、太陽なんかじゃない」

「俺にとっては、アンタが、太陽だったんだ」

「…今でも、そう」

語られる言葉に。
応えを返す者は、なく。

それでもエドは、語りかけた。
二度と、眼を開きはしない、最愛の人へ。



送られた、手紙の、一番最後には。
何本もの線が引かれ、消された言葉。





【今更だとは 思うけれどね】

【エドワード】

【私は君を 誰よりも】



愛しているよ



外は、晴天。

エドは、泣き笑いのように、表情を歪めた。
けれど、涙は、流れず。

ロイの手に。
乾いた頬を、すり寄せ。


告げた。


「…俺も。愛してるよ。ロイ」





口付けた唇は。

血の味がした。












ここまで読んで下さった方、本当に有り難う御座います。お疲れ様でした。

ロイが死んで、泣く事も出来ないエド。
エドを残していかなければならないロイの悔しさ。

色々書きたい事はあったのですが。
文才皆無の俺にはコレが限界。

ロイのセリフ臭くて御免なさい。
みんな(特にエド)が激しく別人で御免なさい。
しかも、無駄に長ッ!!

世界の皆様御免なさい。

そして流夜サマの素晴らしき世界観をぶち壊して申し訳御座いません(土下座)
お詫びのしようも御座いません。

全ての生命体に向かって謝り倒したい所存で御座います故、これにて(逃走)



斎雅 月 拝


※後書きは反転にて





2003.12.25















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