死ぬんだ。そう思った時、彼の顔が浮かんだのはきっと、ただの偶然だったのだろう。



偶然など、必然の片割れに過ぎないけれど。







終わりなき喜劇に奇跡の片割れを







扉の向こうで聞こえた物音に、エドはベッドから身をもちあげると、手を打ち合わせて『機械鎧』を刃へと練成した。

同室内には、見慣れた弟の姿はない。彼は隣の部屋で自分同様賢者の石についての資料をあさっているはずである。



「……アル?」

警戒したまま弟の愛称を呼んでみるが、返答はない。
一度舌打ちしてから、ドアノブへと手をかける。自身そのものを練成陣とした練成が発動し、扉は一瞬のうちに消えた。

「誰だ!」

叫んで刃を構えてみたが、練成によって消え去った扉の向こうの空間には、誰の姿もなかった。
一瞬拍子抜けし、気のせいかと思い扉を再練成しようと床に手をつこうとして――その行動が、途中で硬直する。



床に倒れこんだ、人がいた。


否、人と呼ぶにはふさわしくない。自分は彼の呼称を知っている。




「大佐……?」




ロイ・マスタング国軍大佐。
後頭部を見ただけで彼だと言いあてる自信があるエドは、それでも呆然と、自信なさげに彼の名を呼んだ。


だって、こんなふうに倒れている彼を、無防備な姿をさらしている彼を、自分は一度だって見たことがない。



「兄さんどうしたの……ってうわァ大佐!」

右手から出てきた巨大な鎧姿の弟が、叫びをあげて走りよってくる。

「どうしたんですか! 何でこんなに血まみれに……」

血? 何を言ってるんだアルは。ロイが血を流すなど、そんなことあるはずないに決まっている。

だって、ロイはあんなに強くて、いつも前を向いていて、飄々としているけどどこかおどけていて。


今日は、雨が降っているわけでもなくて。


「兄さん大丈夫! 大佐まだ生きてるから!」

だから、お前はさっきから何を言ってるんだ。

そう、エドの口は言いたかったのだろう。

けれどそれは果たされず、エドの意識は色を取り戻したロイの姿に釘づけになっていた。




紅。




その色が、ロイの体を、服を、命を彩っていた。

流れいずるそれは、廊下を遠くから塗りつぶしてきていて、いつ死んでもおかしくないほどの流血で。

ロイの腹部に刺さった刃を見た瞬間、エドの意識は平常を失った。













アルがロイの手当てをしようと右往左往している間、エドは何もせず、否、何もできずにロイの傍にいた。

大量の冷や汗をかき、ベッドを血で染め続けているその肉体が、何か異形のものに見えて、動けない。
アルも「手伝ってよ兄さん!」と一度叫び、それでも兄が動かないのを見て、もう助力は期待していない。



ゆるりと、大儀な動きでエドの視線がロイの腹部へと動いた。
突き刺さった刃は、引き抜けば流血を促すだけだという判断のもと、未だロイを鞘にすることを許されている。が、何度見てもその状況への不快感は消えてはくれない。





俺の大佐に触れるな。





そんな、凶器に向けるには馬鹿馬鹿しいような感情が生まれて、エドはその銀を大佐から引き離そうとして。



刹那、脳裏に過去が甦る。



母さんが死んだ日。

墓標の前で人体練成を誓った日。

様々な文献をあさって、いざ母さんを練成しようとした日。






左足と弟全てと引き換えに現れた、『母さん』の死んだ魚のような瞳。





何もかもが、母さんが死んだことによって始まった。

ここでロイを死なせたら、あの日々がまた始まるのだろうか。
失敗するとわかっていながら、ロイを練成しようとするのだろうか。



異形の姿の『母さん』と、ロイの少々気に障る笑顔が重なる。



そのイメージを恐れ、小さく息を呑むと同時に手を引こうとし――不意に、その手が掴まれた。

「――っ!」

一瞬前まで見ていた映像が恐怖を研ぎ澄まし、エドはその手を思わず振り払った。

止まっていた呼吸を再開し、今のが何か必死に考えようとして。




「……鋼の?」




その答えは、聞きなれた声が与えてくれた。

視線を向けたその先で、ロイが薄くではあるが、目を開いていた。目蓋は震え、声もどこか頼りないが、目の焦点はこちらにすえられている。


「大佐! おい大丈夫か! お前ひどい怪我で、俺の部屋の前に倒れてて……! もうすぐ中尉と医者がくるからな! 治療してもらえるからな!」

再び瞳が閉ざされることを恐れて、今ある情報を片っ端から列挙していく。人体の傷を消せない錬金術師の限界を、これ以上なく憎んだ。


と、ロイの口がわずかに歪む。


「泣いてくれるか。鋼の」

言われ、エドは初めて自分が泣いているんだと気づいた。
けれど、それをぬぐう気にはなれない。



ぬぐっている間に、その時間を代償として、ロイが消えてしまうような幻が見えて。



ただ、彼の、発火布をつけていない手を握ってやることしかできずに。



「私が死んでも、誰も泣いてくれないと思ったよ。私は上に行くために、少々敵を作りすぎた。
 私についてきてくれると言った彼らさえも、いつか裏切るのではないかという考えが消えなかった」



ロイは、淡々と語り続ける。まるで、死者の遺言のように。



「泣いてくれるあてが一人できた。喜んでいいことなのだろうな」


一度強く瞬きして、再びこちらを見つめる。






「礼を言おう。ありがとう。エド」






それを最後の言葉として、ロイは再び眠りに落ちた。静かな呼吸が示す彼の命に、エドは安堵のため息をついて。



ロイの上着から覗く紙切れを見つけたのは、その時だった。



ロイから手を放し、恐る恐るながらそれを手にとって開いて――エドの両目は大きく見開かれた。


それは、軍部からの指令書。こういうものは読んだ後即刻燃やさねばならないはずだが、ロイは今回に限って残したままであったらしい。

そこに記されていたのは、明細された地図と、標的者の名前。罪状。その他諸々の情報。

呆然としたままそれを流し読みして、その紙切れと眠るロイの顔とをしばらく見比べて。



エドは、指令書をポケットの中へと押し込んだ。



そのまま走るように窓へと手をかけ、二階からのぞく地面を睨みすえて。


一度だけ、ロイの方を振り返った。






「……帰ってくるからさ。絶対死なないでくれよ。ロイ」






ただ、その一言だけを頼りにして、夜の街へと身を踊らす。




殺してやる。

たった今見た名を繰り返し、顔も知らない敵へと殺気を向けて、エドワード・エルリックは地図の場所へと駆け出した。





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…………えぇ終わり!?(笑
最後にアルとホークアイの会話を書こうとしたけどやめました 何となく
しかし……この後どうなるんだろうね 誰か書きませんか?(人様に押しつけるな阿呆
所要時間一時間 なんか鋼は書きやすいなァ キャラが動いてくれるからか?
書く前までの、頭の中での構造はロイとエドが牢屋で捕まってるシーンがありました
そんでもってエドが鬼と化すと でも過程が長いので却下
どうも私は眠っているロイに非常に萌えるらしいゲホンオホン

【追記】
 後日斎雅月様との合同二分裂の続きを書く予定ができました
 皆様お楽しみに!もちろん斎雅殿のを(笑
 斎雅様 巻き込んで申し訳ないです 楽しみにしてますわ(にこにこにっこり



2003.12.14. 暁鴉 流夜












流夜サマの小説を読み。そして、後書きを読んだ直後。
「続き書いても良いですか?」などと迷惑極まりないメールを送りつけ。
有り難く執筆の許可を頂きました。
・・・。
ほ、本当に、俺なんぞが続きを書いてもよいのだろうか…(何を今更)
流夜サマの世界観ぶち壊しの自信が在りますが(何の自信)

ともかく、12月25日、クリスマスを目標に。
あらん限りのネタと心意気をぶち込みますので、どうぞおつきあい下さいますよう。

俺の駄文のおもしろさは保証できませんが、
流夜様の文章の面白さは全身全霊をかけて保証致します(いらん)



※後書きは反転にて


斎雅 月 拝





2003.12.15
















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