ちりちりと この胸を焼く焔は

いずれ この身を焼き尽くすだろう

いつか訪れる その時に

私の隣には 誰がいるのだろうか…?










† 霖雨 †










「鋼の。…何が気にくわないのかね」

深々と溜め息をつき、ロイが言った。
だが、声をかけられたエドワードは視線を送る事すらせず。
叩き付ける雨に滲む窓の外を睨み付けているだけで。

「…鋼の」

もう一度、ロイはゆっくりと呼びかけた。
そして、反応を返さないエドに、もう一度溜め息をつきかけた。
が、それはふいにエドが発した言葉によって遮られた。

「俺、もう帰るわ。アルも心配してるだろうし」

言い終えるのと同時に。エドはソファから立ち上がり、振り返る事もせず執務室から出て行こうとする。
慌てたのは、ロイ。
勢いよく椅子から立ち上がると、大股でエドに歩み寄りその左腕を掴んだ。
振り返ったエドの強い瞳とかち合う。…つまり、睨み付けられたのだ。
子供に睨み付けられたくらいで、怯みはしないが。

「…鋼の」
「何だよ」
「何が気に入らないんだい?」

ロイがもう一度問うた瞬間、エドが僅かに瞳を細めた。
その眼差しに冷ややかな光が混じったのは、己の見間違いであって欲しい。
そう、ロイは願った。
なぜなら、エドがこんな目をする時は、間違いなく。

「それが解らないなら俺が此処にいる意味もないんだよ。焔の錬金術師ロイ=マスタング大佐殿?」

心底、憤っている時であって。
しかも、冷えた瞳はそのままに、凄絶な笑顔すら浮かべている。嗚呼もうどうしよう。
ロイは思わず、信じても居ない神にすら祈りを捧げたくなって。

「エドワード…」

唯一自分が信仰にすら近い想いを抱く少年の名前を呟いた。
余程、情けない顔をしていたのだろうか。
少年は小さく溜め息を漏らすと、ロイに向き直り、言った。

「大佐、ほんっっっっっっっとに、解らないのか?」
「…あぁ」

子供が叱られたような情けない顔をしたロイに、エドは深く深く溜息をついた。
更に情けなさ倍増の表情で項垂れるロイ。

「だぁぁぁもぅ…ッ」

グシャグシャと金の髪をかき混ぜ、エドがロイの腕を掴み、乱暴な足取りでソファへ近付く。
そのままの勢いで、突き飛ばすようにロイをソファに沈める。

「は…ッ鋼の?」
「黙れ」

短く一言告げ、エドはロイの襟首を掴みあげると、乱暴にその額に口付けた。

「ッ!?」

目を見開いたロイを完全に無視し、掴んでいた襟を離すとエドはロイの隣に陣取った。
尊大に、仰け反るようにエドがソファに座ると、ロイが声を掛けた。

「…額にだけ、かい?」

どこか不満そうなロイ。
エドは鼻で笑うと、目を合わす事なく言った。

「勤務中だろ。雨の日くらい真面目に働け無能大佐」

あぁ…やっぱり怒ってる…
涙でも流しそうな雰囲気を醸し出しながら、ロイは自分の椅子へと戻って行く。
椅子に座り、切ない溜め息を漏らして書類の山の一角を手に取るロイ。
相変わらずソファに仰け反り窓の外を眺めながら、エドが呟いた。

「あと3時間で全部仕事終わらせろ。そしたら許してやる」
「それは…今日、私と付き合ってくれると言う事かい?」

エドの言葉を聞いたロイが、尋ねると。
さぁなと一言。
それでもロイは嬉しそうに微笑むと、常とはまるで違う真剣さで書類に取りかかった。





「…の。…ねの。鋼の?」
「んぁ…?」
「済まないね、起こしてしまって」

でもそのままだと風邪を引いてしまうだろう。
ロイの言葉に上体を起こそうとし、自分の躰にかけられたコートに気付く。

「…仕事」
「あぁ、終わったよ。中尉に嫌味を言われてしまったがね」

受け取る際、あの有能な中尉は「いつもこれだけ働いて下されば助かるのですが」と、
氷点下の眼差しで言い残したという。
まぁそれも普段の態度が態度だし、仕方ないだろう。
まだ完全には覚醒していない頭で、エドがぼんやりと考えていると。

「鋼の。…今日は、どうしてそんなに機嫌が悪かったんだい?」

教えてくれないかねと、エドの頭を撫でながらロイが言う。
せっかく久々に逢えたと言うのに、愛しい者がつれないのは寂しいからね。
そう続けたロイに、エドが顔を顰めた。

「そうやって、アンタはいつもいつも、…ッ」

いつでもそうやって、全部自分一人の中に押し込めるんだ。
いつもは絶対に見せない情けない顔だとか、声だとかを晒しておいて。
それで俺には何も言わないで。
何もないと言い張るんだ。アンタは。
無言で俯くエドの傍らに跪き、ロイが首をかしげて言った。

「言いたい事があるのなら、ハッキリ言って欲しいのだがね」
「…言いたい事があるのはアンタだろ」

拳を握りしめ、ロイの頭を思い切り左手で殴りつけるエド。
何か言おうと顔を上げたロイは、エドの表情を見て、口を閉じた。
ふわりと、エドを抱きしめる。

「はなせよ」

「離せ」と言う意味だろうか。それとも、「話せ」と言う意味だろうか。
エドを抱きしめた姿勢のまま、ロイは悩んだ。
エドはロイの背にそろそろと腕を回し、もう一度呟くように「はなせ」と言った。
あぁ、ならば腕を解けと言う事ではないのか。
内心ホッとしつつ、その場に座り込み、ロイはエドを抱きしめる腕に力を込めた。

「…夢をね、見たんだよ」

情けない、とは思うが、全て話さなければこの少年は納得しないだろう。
苦笑しながら、ロイは言葉を続けた。


夢の中では、今日のような霖雨が降り続き。
雨の中佇む少年は、自分の言葉に振り向く事もせず。
終いに少年は、自分が差し出した手を振り払い。
手の届かない所へと。声の届かない所へと。
けれど自分は、少年を引き留めては行けないのだと。
そう、解っているから。
だから、自分は…


「バッカじゃねぇの?」
「は?」
「馬鹿じゃねぇの、アンタ。って言うか、無能だな。本当に無能大佐だな」

呆れた、と吐き出すように発せられた声は、震えて。
突き放すような言葉とは裏腹に、背に回された腕はしがみつくように強く。

「…済まない。疑っているワケじゃないんだ。ただ、不安なのだよ」

何せ、君は根無し草だからね。
冗談のように呟くロイの後頭部が、殴られる。

「…鋼の、右手で殴るのは酷いと思わないかね…?」
「これっぽっちも思わねぇよ」

腕は回したまま、エドがロイの肩に埋めていた頭を離し、
真正面、しかもかなりの近距離でロイの瞳を睨み付け、言った。

「あのな、それを疑ってるって言うんだよ。俺はアンタが此処に居るから戻って来るんだ。それにな、不安だってのは俺のセリフだっつーの!いつ飽きられるか、捨てられるか。いっつも心配させるような行動とってんのはアンタの方だろうが!!」

言い終え、再び自分の肩に顔を埋めるエドの頭を、半ば呆気にとられた表情で撫でるロイ。
投げつけられた言葉を繰り返し反芻し、ようやく脳がその言葉の意味を弾き出すと。
生涯今まで誰も見た事がないだろうと思われる種類の、優しい笑みを浮かべた。

「それは、自惚れても良いと言うことかね?」
「いつでも自信満々で自惚れて人の事好き勝手振り回すのは何処の誰だ」
「あぁ…そうだったね」
「って、肯定すんのかよ!」
「勿論だとも」

あっさりと応じ、エドの上半身を引き離してみれば。
エドの頬は紅く染まり、睨み付ける瞳は潤んでいる。
それは先程怒鳴ったからだと解ってはいるが。
誘われるように、ロイはエドに口付けを落とす。
子供をあやすような軽い物から、だんだんと深い物へと変えていく。

「ッんぅ…」

まるで逢えなかった時を埋めようとするかのような、長く深い口付け。
きつく噛みしめられた歯列を舌でなぞると、ゆっくりと迎え入れられる。

「ふ…ぁっ」

逃げを打つ舌を絡め取り、吸い上げる。
背中に回していたエドの腕からは力が抜け、弱々しく縋り付くような格好になっている。
空気を取り入れようと開かれた口の端からは甘い吐息が漏れ、簡単に煽られる。
もっと、と強請るように、エドが自分から舌を絡めてくる。
ロイは目を細め、わざと音を立て、唇を離した。

「ぁ…ッ」

咄嗟に出てしまった自分の不満げな声に、エドの顔は羞恥に染まる。
飲み込みきれず、口の端を伝う唾液をロイが舐め取る。
その感触に背を震わせ、エドが切ない吐息を漏らした。
ロイはエドの躰を抱き上げ机の上に座らせると、額を逢わせ、囁いた。

「いいかい?」

その囁きは、問いかけと言うよりむしろ確認で。
耳に吹き込まれたその声に含まれる欲を感じ、エドは潤んだ瞳で、小さな吐息と共に頷いた。





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澪サマから頂いた素敵大佐イラへの御礼品。
遅筆、しかも出来上がるのは限りなく駄文ですが、書かせて頂いております。
・・・。
はい、そうです、進行形です。まだ続くんです、コレ。
…どうもスミマセン(土下座)
しかも続きは裏デス。
重ね重ね申し訳御座いません。
言い訳のしようも御座いません。

時雨 澪サマ。
こんなしょーもない駄文ですが、
前・後編ともにお受け取り頂ければ幸いです。

ではでは(言い逃げ)



斎雅 月 拝





2003.11.24





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