俺はただ、その白い肌に朱が一筋走る様を見てみたいだけだ。
それは屹度、ひどく美しいのだろうから。
†傷跡の、証†
「何がしたいのかね」
革張りのソファの上で自分を押し倒し、馬乗りの姿勢をとった少年を見上げ、男が問う。
淡々と。
無表情に。
「黙ってろ」
男の上に馬乗りになり、その左手に果物ナイフを掴んだ少年は、男と同様に無表情のまま淡々と言葉を紡ぐ。
「そう云うがね、鋼の」
無表情のまま少年の頬へと男が伸ばした掌は、少年の右の義手によってあっさりとソファへ縫い止められる。それを気にする風もなく、男は続く言葉を口にする。
「顔に刃物を突き付けられる理由を尋ねる権利くらいはあるだろう」
「ないね」
男の言葉へ即答を返した少年は、男の頬へ押し当てていた刃先をゆっくりと首筋へ移動した。
「鋼の」
「黙れ。動くな。手元が狂う」
少年の理不尽な言葉に、男は小さく溜息を漏らし、瞑目。
その頬に、瞼に、口付けをとし、男の唇に自身のそれを近付け、少年が囁きを落とす。
「アンタには理解出来ない。だから理由なんて知らなくて良い」
唇へも口付けを落とし、小さく笑う少年。
「それは、解らないだろう」
閉じていた眼を開き、少年の其れと合わせる男。
「解るさ。だって、アンタは俺じゃないから」
所詮他人同士での相互理解など成し得ないのだと、少年は嗤う。
「俺はただ、見てみたいだけだ」
何を見たいのか、少年が口にする事はなく。
何を見たいのか、と男が尋ねる事もなく。
ただ穏やかな、沈黙。
「誰かが入ってきたら、どうするつもりなのかね?」
眼を眇め、何かを試すように沈黙を破った男の胸元に、少年は額を預ける。頼りない刃を男の首筋に這わせたまま。
「誰も来ないさ。鍵はしっかり閉めたからな」
アンタが。
喉の奥で笑うその様は、未だ幼さを残した少年には似つかわしくない。
男は、自分の心臓の上、すり寄せられるまろく幼い頬に指を這わせる。
少年はその指を振り払う事もなく、笑い続ける。
「気付いていたのかい」
男は驚くワケでも、確かめるワケでもなく。
無感動のまま事実を事実として言葉を連ねる。
少年は未だ、刃を握りしめたまま。
「気付いてたよ」
気付いてた。
小さな声で繰り返し、呟く。
接する場所から伝わり与えられる熱は、指先まで浸透し、神経を侵す。
もたらされたのは、僅かな痺れと陶酔感。
「ただ、見たかったんだ」
は、と、小さく熱い吐息を漏らし、少年は面を上げ男の漆黒の瞳を見詰める。それを真正面から受け止めた男は、少年の握る刃を、手袋を外し素肌を晒した右手で、掴んだ。
僅かに身を震わせ手を引こうとした少年の左手首を左手で掴み、引き止める。
見開かれた金色の瞳を覗き込み、口元を歪ませ、男は云った。
「あぁ、よく、映えるね」
君の瞳と、髪に。
ぱたり、と革張りのソファの上に滴る赤い血。
「綺麗だ」
私の此の、汚らわしい毒気にまみれた、醜いだけの生の証も。君に触れれば。
世界の全てを嘲笑う男は、唯一の少年の頬に、指を滑らせる。紅い一筋の軌跡を少年の白い頬に残し、指は離れた。
「本当に」
綺麗だ。
囁きと共に、少年の白い頬へ唇を寄せ、反対の頬を未だ血の伝う右の指でなぞり、紅い色を侵食させる。少年は、男のその右手首を握り、掌に口付ける。赤い舌を傷口へ這わせ、赤い血を舐め取る。
「ただ、見たかった」
こくり。
喉を鳴らし。
「見たかった、だけだ」
紡がれたのは。
どちらの、言葉か。
「…解ってる」
男と少年は、額を合わせ。
密やかに、嗤う。
自称ロイエド再来。何度目だ。
基本的に、俺が書くモノは一つ一つ独立しているので、それぞれ別世界…と言うか、それぞれ違うロイだったりエドだったりハボだったりするのですが、これは続き物。
時間軸は†一時の喜劇と、永遠の悲劇を†の前、と言う事になります。
ロイとエドは、微妙な部分で擦れ違っていると思う。感覚的なモノも、精神的なモノも、どこかしらで擦れ違って、食い違って、傷つけ合って。
決して一つになる事などできないんだろう。
それは誰もが同じだけれど、それを理解しているだけに、この二人の関係は、痛みを伴うモノになる。
そんな感じがする。
勝手に。
でも、それを言うならハボロイの方が、顕著だろう。
※後書きは反転にて。
斎雅 月 拝
2004.9.12
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